映画『ファーストキス 1ST KISS』は、タイトルだけ見ると「甘酸っぱい恋物語かな?」と思わせる作品ですが、実際は良い意味で期待を裏切られる要素がたっぷり詰まった一本です。
私が最初に観ようと思ったきっかけは、予告編で松たか子さんがウインクをするシーンでした。たった数秒の映像ながら「素敵なラブストーリーなんだろうな」と勝手に想像していたのですが、本編を観てみるとタイムトラベルやコメディ要素、夫婦のリアルなすれ違いなどが詰め込まれた、まさに“意外性たっぷり”の仕上がりでした。
ここでは、私が実際に観て感じた「良い意味で裏切られたポイント」や印象に残ったシーンの紹介、さらには作品を通して得た考察と学びをまとめてお伝えします。
良い意味で裏切られたポイント
予告編とのギャップ
- ウインクシーンの意外な使われ方
予告編でもっとも印象的だったのは、松たか子さんのウインク。多くの人が「ロマンチックな場面で使われるのでは?」と想像するはずです。私も「相手との決定的な愛の瞬間を彩る演出」だと思っていました。
ところが、実際には「彼の気を引くため」というちょっと小悪魔的な行動で、その結果が「ドライアイですか?」というズレたツッコミを受けるという、なんともシュールで笑える展開。予想していた“胸キュン場面”が“ギャグシーン”として使われるなんて、これこそ良い意味での裏切りでした。
松たか子の“恋する女の子”モード
- 大人っぽいイメージとのギャップ
松たか子さんと言えば落ち着いた大人の女性のイメージが強いですよね。しかしこの作品では、大好きな彼を想うあまりにちょっと強引なアピールをしてみたり、冷たい言葉をわざと放ってみたりと、若い女の子のような“恋愛モード全開”の姿が見られます。 - 切ないセリフの重み
中でも「一番嫌なことって、好きでもない人から好きって言われることなんだよ」というセリフは必見。自分の気持ちを抑えながら、あえて相手に嫌われるような言動をとる。その裏には深い愛があるわけですが、このセリフを口にする松たか子さんの表情からは本当に苦悩がにじみ出ていて、胸が締めつけられました。 - 年齢を超えた演技力
また、公開時で47歳の松たか子さんが29〜30歳の女性を演じるという難役を自然にこなしていたのも驚きです。実年齢とのギャップを感じさせない演技力と雰囲気づくりに、改めて女優としての底力を感じました。
松村北斗が魅せる多面性
- 44歳役を違和感なく演じきる
松村北斗さんといえば、若手俳優でスタイリッシュな印象がありますが、この映画では44歳の役を自然に演じていました。メイクやしぐさ、話し方などが細かく作り込まれていて、29歳の彼が中年男性に見えてしまうのは本当にすごい。 - 作品全体を支える演技
松たか子さんとの共演感も抜群で、「この映画は松たか子と松村北斗のために作られた」と言っても過言ではないほど、二人の存在感が際立ちます。彼らが物語を強く牽引していることで、観客もタイムトラベルなどのファンタジー要素にすんなり溶け込むことができるのだと思います。
感想
コメディ要素もたっぷり
- 意外に笑えるシーンの多さ
タイムトラベルという設定からシリアス寄りかと思いきや、随所にコメディ演出が散りばめられています。特に、美術スタッフが舞台装置の上部をほふく前進するシーンは、『ミッション:インポッシブル』さながらで笑いを誘われました。 - 軽快なテンポで飽きさせない
シリアスとコメディのバランスが良いからこそ、観ていて重たくなりすぎず、しかし安っぽくもならず、一気にストーリーを追いかけられます。予告編のイメージから受ける“しっとりしたラブストーリー”だけを期待していると、いい意味で裏切られるはずです。
タイムトラベルと首都高の不思議な融合
- 三宅坂ジャンクションでの自然なタイムループ
劇中で何度か発生するタイムループは、すべて三宅坂ジャンクションを通る際に起こります。この設定は一見ファンタジーそのものですが、映画の空気感に溶け込んでいて不思議と違和感がありません。 - 運転シーンのツッコミどころ
ただ、松たか子さん演じる硯カンナが首都高をブレーキを踏みながら追い越していくシーンだけは、若干「え、そこでブレーキ?」と思う瞬間がありました。これは映像映えを狙った演出かもしれませんが、現実の運転シチュエーションを考えると少し不自然で、個人的に気になったポイントです。
夫婦生活のリアリティと収入格差?
- 広い家・良い車が意味するもの
硯カンナ(松たか子)と硯駈(松村北斗)が住む家は結構広く、乗っている車も良い車です。そこから「カンナは仕事で成功したのかな?」と想像させる要素があります。 - 仲違いの原因はすれ違いと格差?
作品中で明確な理由は語られませんが、夫婦がギクシャクしている背景には「勤務形態や収入の違い」といった、現代的な夫婦の悩みが垣間見えます。過度なファンタジーになりすぎないリアリティがあるからこそ、タイムトラベル物であっても共感しやすくなっているのだと思います。
硯駈(松村北斗)の“奴隷気質”?
- 教授や上司に振り回される姿
大学時代には教授からジャムのフタを開けさせられたり、資料探しを押し付けられたり、社会人になっても上司に飲めないお酒を飲まされたり……。まるで“奴隷”のようにこき使われる硯駈の姿が描かれています。 - 吉岡里帆演じる教授の娘との結婚は幸せだったか?
もし彼が教授の娘と結婚していたら、教授の思想にずっと支配される人生になっていたかもしれない、と考えるとゾッとします。嫌みを言い放つ教授やその周囲の人々に押しつぶされてしまう未来だって十分あり得そうです。そんな中、硯カンナは彼の意思を尊重しつつも、時に厳しく突き放す面もある女性で、実はこのバランスが硯駈にとっては最適なのではないかと思いました。
夏の映像美
- ノスタルジックな夏の描写
青空や入道雲、強い日差しの中でのシーンが多く、映像的にも夏の空気感が爽やかです。非日常的なタイムトラベルの要素も、この“夏の匂い”があるからこそ、どこか儚くて切ない雰囲気を生み出しているように感じました。
考察
タイムトラベラー・カンナは未来で幸せになれたのか?
- 結論:幸せだった(と信じたい)
- 理由(1) 硯駈が15年間、自分を愛し続けてくれていたという事実を知ったから。
- 理由(2) 短い時間ではあるが、改めて大好きな彼と向き合えた“濃密な1日”を過ごせたから。
- それでも残る切なさ
- タイムトラベラーのカンナが戻った先の未来では、硯駈はもう亡くなっているかもしれない。確かに「彼が自分をずっと愛してくれていた」という結果を得られたものの、一緒に過ごすプロセスを存分に味わえない切なさは拭えません。
- 15年後のカンナと同じタイムラインを生きたわけではないので、過去の幸せなプロセスを“リアルタイム”で共有できなかったことに対する嫉妬や後悔も少なからずあったでしょう。
硯駈(松村北斗)はどうやって夫婦円満を維持したのか?
- 共感重視のアプローチを忘れない
カンナ(松たか子)が口にしていた「アドバイスはいらないの。とにかく共感してあげて」という言葉をしっかりと守ったからこそ、夫婦の溝が深まらずにいられたと考えられます。 - 残り時間を真剣に大切にした
15年後には自分が死ぬ運命を変えられないとしても、「その15年間をどう過ごすか」を変えることでカンナを幸せにできると知ったことが、彼の大きなモチベーションになったはずです。 - 彼女が自分を好きでいてくれる確信
未来のカンナがまだ自分のことを愛してくれていると知れば、「自分が変われば未来も変わるかもしれない」という希望が、彼を支えたのではないでしょうか。
この映画を観て私たちはどう生きるか?
- 観るだけで終わらせるにはもったいない
タイムトラベル×ラブストーリーと聞けば、「面白かった」「泣けた」「松村北斗がカッコいい」「松たか子が素敵」など多くの感想が出てくるのは当然でしょう。でも、それだけで終わってしまうのは少しもったいない。 - 学べるポイント
- 未来は変わらなくても、プロセスは変えられる
結果そのものをコントロールできなくても、そこに至るまでの過程や向き合い方は自分の行動次第でいくらでも変えられます。 - 15年後の自分やパートナーが今ここに来たら?
そんな想像をしてみると、今の行動をもう少し良い方向に変えられるかもしれません。失敗を恐れず、あえて行動を変えてみることは、人生を前向きに捉える大きなきっかけになるでしょう。
- 未来は変わらなくても、プロセスは変えられる
おすすめしたい人、そうでない人
おすすめな人
- 結婚生活が10年以上続いているカップル・夫婦
- 最近夫婦仲がマンネリ気味で、何かしら刺激やヒントを得たい人
- タイムトラベル系の設定が好きだが、コメディ要素も楽しみたい人
予告編とのギャップ
- 結婚のリアルをイメージしづらい10代の若年層
※もちろん楽しめないわけではありませんが、夫婦間の問題にリアリティを感じにくいかもしれません)
まとめ
映画『ファーストキス 1ST KISS』は、タイムトラベルという非現実的な設定を軸にしながらも、夫婦間のすれ違いや収入格差、仕事への向き合い方など、現実的なテーマをしっかり押さえた魅力的な作品でした。
- 物語の魅力を支える二人の演技
- 松たか子さんが“恋する女性”を全力で演じきる姿
- 松村北斗さんが44歳役を違和感なくこなす姿
これらが合わさって、観客を物語にグイグイと引き込み、タイムループ要素への抵抗を感じさせません。
- 日常の尊さと未来を考えるきっかけ
私たちが普段何気なく過ごしている日常は、実はとても尊い時間なのだということを改めて感じさせてくれます。もしも過去に戻れたとして、人生をやり直せるならどうするか? それを実際に体験できる人は誰もいませんが、この映画を通して「未来のために今をどう生きるか」を考えるヒントが得られるでしょう。
作品を観終わったあとには、単なる“胸キュン映画”の枠を超えた余韻が残ると思いますので、もしまだ観ていない方はぜひチェックしてみてください。驚きや笑い、切なさ、そして生きるモチベーションまでもらえる、不思議な魅力を備えた一本です。
おまけ
映画『ファーストキス 1ST KISS』のオリジナルシナリオブックは、坂元裕二が紡いだ珠玉の脚本と松たか子の特別寄稿文、さらにカラー映画スチール16ページを完全収録。
映画の感動、制作秘話、舞台裏までが余すところなく詰め込まれており、スクリーンで感じた興奮や涙を自宅で何度でも再現できます。
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