戦争xLGBTQという意義深いテーマを扱った本作。
ですが、私には刺さりませんでした。
あらすじ&総合評価
あらすじと総合評価です。
あらすじ
ゲイであることで母に捨てられ、16歳から10年間ホームレス生活を送っていた青年・フレンチ(ジェレミー・ポープ)。どこにも居場所を許されず、自らの存在意義を追い求める彼は、生きるためのたったひとつの選択肢と信じて海兵隊への入隊を志願する。だが、訓練初日から教官の過酷なしごきに遭い、さらにゲイであることが周囲に知れ渡るや否や激しい差別にさらされてしまう……。理不尽な日々に幾度も心が折れそうになりながらもその都度自らを奮い立たせ、毅然と暴力と憎悪に立ち向かうフレンチ。僕が僕のままで在るために、自分の意志でここに居る――。孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく。
(Amazonより引用)
総合評価:★★☆☆☆ いまいち
残念ながら、よい評価にはなりませんでした。詳しく説明していきます。
意義深いテーマなのに刺さらなかった本当の理由
戦争xLGBTQ。
意義深いテーマでしたが、3つの理由から「この映画はオススメ!」となりませんでした。
【理由1】常識を超えすぎた – 日本人には理解の壁が高すぎる
映画を見た後にLGBTQとアメリカ軍について調べてみました。すると衝撃の真実が。
アメリカ軍におけるLGBTQの激動の歴史 – 「見えない存在」から「存在証明」への闘い
映画の舞台となっている、2005年当時のアメリカ軍におけるLGBTQの状況は、非常に複雑でした。
1993年、クリントン政権下でDADT方式を導入。DADTとは「Don’t Ask, Don’t Tell」の略で日本語では「訊かざる、言わざる」です。
この政策の背景には、冷戦後の軍隊における伝統的な価値観と、新しい多様性への圧力が交錯していたことにあります。クリントン大統領は完全な平等を実現しようとしましたが、米軍上層部と議員の反対に遭い、言わなければ入隊できるDADT方式で妥協せざるをえませんでした。
DADT方式は、同性愛者であることが発覚した瞬間に即座に除隊させられるという、あまりにも非人道的なルール。個人の尊厳や能力よりも、性的指向が重視される状況だったのです。
その後DADT政策の撤廃を大統領選の公約に掲げたオバマ大統領が当選すると、LGBTQの権利回復への第一歩を踏み出しました。
しかしながらトランプ政権になると、一転して「トランスジェンダーの従軍を禁止する」方針に。
そしてバイデン政権ではトランスジェンダーの軍隊復帰など、包括的な姿勢を示しています。
まさに政権によって左右された激動の歴史です。
日本におけるLGBTQは知っていても、アメリカ軍におけるLGBTQについては知らない方も多いのではないでしょうか?
参考:バイデン大統領が、トランプ政権時代のトランスジェンダー入隊禁止措置を撤回しました
宗教が作り出す、残酷な「排除」の構造
キリスト教におけるLGBTQへの態度は、映画の重要なテーマの一つです。
同性愛行為は長らく「罪」とされてきました。
教会の教義は、LGBTQの人々を根本的に「異常」と位置づけ、人間の本質的な尊厳を否定してきた歴史があります。
そして宗教的価値観により、家族が分断される悲劇的な現実。
「愛」よりも「教義」を優先することで、最も近しい人間関係さえも壊されてしまうのです。
主人公の母親は、まさにこの葛藤を象徴的に体現していました。
多くの日本人にとって宗教によって家族が分断されるとは夢にも思わないはず。
このあたりを理解していると、一味違った映画の評価になるでしょう。
【理由2】映画が描こうとした「孤立を恐れず、周囲を変える」というメッセージ
映画のあらすじには「孤立を恐れず、同時に決して他者を見限らない彼の信念は、徐々に周囲の意識を変えていく」と書かれていましたが、実際の映画では、その描写は非常に限定的でした。
意識の変化が見られたのは、アラブ系のイスマイルと上級教官のロウズの2人だけ。
私は、訓練所内で全員の意識が徐々に変わり、最終的に仲間になるストーリーを期待していました。
しかし、映画はそこまで丁寧に描かれてはいませんでした。
確かに、訓練所を卒業して海兵隊員となった時点では、イスマイルとロウズ以外の仲間との関係性も描かれています。
しかし、その劇的な変化のプロセスがあまりにも飛ばされており、私は物足りなさを感じました。
【理由3】不必要に露骨な性描写
LGBTQであることが周囲に知れ渡るシーンは、LGBTQを扱う上では仕方ありませんが、トイレの個室のシーンや、教官のシャワー中に迫るシーンはなくても良かったのではないかと思います。
あえてLGBTQであることをテーマだから繰り返し出したことも否定できなくはないのですが、訓練期間中に教官と関係を持つことは緊張感がなさすぎます。
「こんな俺でも誰かの英雄になれる」というセリフが霞んでしまう。
それでも、ここは良かった
いまいちと評価はしましたが、良かった点もあります。
印象的なセリフ – 人間性の本質を突く台詞
「俺たちが去ったら、奴らの勝ちだ」というセリフは、映画の中で最も印象的な瞬間の一つでした。
「家に帰りたい」と泣くアラブ系のイスマイルに対して、フレンチが放ったこの言葉は、単なる慰めを超えた深い意味を持っています。
訓練の厳しさや差別という苦難の中で、互いを支え合う人間の強さと尊厳を象徴する、心に響く台詞でした。
斬新なテーマ – 戦争映画の新たな可能性
これまでの戦争映画の中で、『インスペクション』は独自の位置を占めています。戦争×LGBTQというテーマに正面から取り組んだ点で、高く評価できると思います。
これまで私が見た比較対象となる有名な戦争映画を見てみましょう。
『フルメタルジャケット』:戦争 × 訓練の過酷さ
ベトナム戦争時代の海兵隊新兵訓練の凄絶な現実を描いた作品
軍隊内部の心理的暴力と兵士の精神的変容を鋭く描写
『アメリカンスナイパー』:戦争 × PTSD
イラク戦争の実在の狙撃手の実話を基にした作品。
戦場での極限状況と帰還後の心の傷を丁寧に描写
これらと比較しても、戦争映画の新たな可能性を探る意欲的な試みとして、一定の意義がありますね。
口コミ
映画を見た人はどう感じたか?
映画の口コミをまとめました。
良い声(肯定的な評価)
当時の時代にしては周りは案外優しかった気がする。母は昔の人で許してくれなかったね。まあまあ楽しめた作品。
映画.com
超低予算。キャストは無名だし、撮影場所も遠景は避け、周囲が映らない狭い空間or顔のアップばかり。
映画.com
でも主人公の心情、葛藤が伝わる。
監督の自叙伝映画で、海軍という過酷な環境に自ら足を踏み入れたよるべない青年の姿を描く、ゲイ映画の中でも異色の一本。
しかしそうするしかなかった彼の境遇は駆け足の描写でも充分に伝わり、深い説得力があった。「先輩が黒と言えば、白も黒」という世界は、強固な縦社会かつ全体主義が横行していたひと昔前の日本を知る者にとって既視の感ありだが、「自由の国」アメリカでも、軍隊に入れば大同小異なのだと改めて驚かされる。
しかし監督の目はあくまでも客観的、退路をぶったぎる上官に内在する「思惑」も、余すことなく描き切っていた。
また同性だらけの空間に押し込められた同性愛男性の感情や身体的反応を、自然にインサートする手腕は、非常に洗練されている。監督の母親は本作の撮影前に亡くなったそうで、ついに受容を得られなかった彼の心中を慮ると、胸が痛む。
Filmarks映画
しかし過酷な訓練を共にした仲間たちが「肉親より素直に彼のセクシュアリティを受け入れる」という描写には、希望と感動が満ちている。
「インスペクション ここで生きる」
— なべお🐟🐢 (@goldfish_nabeo) May 18, 2024
ゲイである主人公は母に捨てられ、居場所のない彼は海兵隊に入隊。
しかしそこでもゲイがバレて厳しい仕打ちを受ける。それに全く屈しない行動に次第に仲間たちと打ち解ける様に。
「母さんは僕のもの、僕は母さんのものだよ」という息子のセリフが刺さった。 pic.twitter.com/qyuK39Ijl8
「インスペクション ここで生きる」を見たよ!
— You-oh Oki 沖 悠央(recording, mixing engineer) (@you_oh_oki) March 10, 2024
ゲイの青年が貧困と差別に立ち向かいながら海兵隊になる映画、評判良かったけど面白かったなー!
ゲイのステレオタイプ感はありますが、短いしテンポいいしバランス良かったです!
個人的には、フルメタルジャケット思い出しながら見てました
良作! pic.twitter.com/GhZ5VRYTQb
悪い声(否定的な評価)
目も当てられないくらいの悲惨な状況で、想像を絶するような過酷な試練があって、見ているこちらの神経がヒリヒリするような内容かと思っていたら、予想していたよりかなり薄口な内容で肩透かしを食らったような感じ。
なんか物足りないというか、この程度で映画化しちゃうんだ、と思ってしまった自分は、性根が腐ってるのだろうか?
映画.com
テーマとしては面白かったけど、途中から結末が見えてしまった。
映画.com
つまらなすぎて言葉が出ない
Filmarks映画
(中略)
そもそもこの主人公が何で海兵隊に入りたいのかがよくわからない。
一応途中で「軍服で死ねたら俺はもうホームレスのゲイ野郎じゃなくてヒーローになれる」的な発言をしているのだがそんな薄っぺらい動機で海兵隊に入りにくるんじゃねえ!まず職探しから始めろ!スタバで働け!!!
そしてこの主人公と母親との間に長年の確執があるらしいのだがそれが全く描かれてない。
訓練中あることがきっかけでゲイがばれてしまうのだけれどあんなことが起きるなら主人公この環境でやってけないだろ。そりゃ同僚達だってビックリするわ!!
結局ラスト何とか修了式まで辿り着いて感動の結末かと思いきや、ここで起こる謎の展開。もはや映画の後味を悪くするための嫌がらせにしか思えない
インスペクション ここで生きる
— しつじ (@shitsuji_mee) October 25, 2024
★★★
これも期待しすぎた気がする。
綺麗な映画だったけど物語には入り込めなくて退屈した。
アメリカではこういう話、特に珍しくない気がする。
フレンチという人物像はとても尊敬するけど pic.twitter.com/tf9973Mb62
こんな方にオススメ
「インスペクション ここで生きる」をオススメできる人・できない人をまとめました。
オススメな人
- 社会の片隅で光る、勇気のストーリーが好きな人
- 「常識」の壁を突き破るヒーローに憧れる人
- マイノリティの叫びに耳を傾けたい人
おすすめでない人
- ストレス解消できるエンタメ映画を見たい人
- 気軽な気持ちで映画を見たい人
- 性描写が苦手な人
まとめ
「インスペクション ここで生きる」は少し物足りないと感じましたが、映画の感想は人それぞれ
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