【書評】灰色の虹【明日、あなたが犯人に!?冤罪の恐ろしい現実】

549ページ。

読み終えるのに、どれくらいかかるんだろう?

と思っていた灰色の虹を2日で読み終えてしまいました。

久しぶりに読み応えのある小説で、これぞ長編ミステリー!と思わず唸る作品に巡り合えた気がします。

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目次

総合評価&あらすじ

総合評価

★★★★★(星5)

日本は警察や検察の努力によって、治安が保たれています。その一方で一定数の冤罪も生まれています。

事実、大川原化工機事件のような冤罪事件、誤認逮捕されたパソコン遠隔操作事件はニュースでも報道されたので知る人も多いはずです。

本作は冤罪が起きるプロセスを見事に描き切っています。

ブログタイトルの「明日、あなたが犯人に!?」は誇張でもなんでもなく、誰にでも起こりうることなのです。

各登場人物の背景も細かく描写され、伏線の回収もしっかりとされ、夢中になって読み進めました。


冤罪に巻き込まれるのは、あなたかもしれない。もしかしてあなたの家族かもしれない。恋人かもしれない。友人かもしれない。

冤罪のレールに乗ってしまったらもうそこからは抜け出られない。

というのは、犯人にするためのシナリオが綿密に組まれているから。

「いいか、このままおとなしく帰れるなんて、そんな甘いことを考えるんじゃねえぞ。こっちは何日でもお前に付き合う準備ができてるんだ。寝かしてなんかやなねえからな。お前が正直に何もかも話すまで、何十時間でも付き合ってるよ」

灰色の虹 単行本 P.92より引用)

自分は一人だけど警察は複数人。体力の限界を迎えるまで次から次へと人が出てきて、あの手この手で自白を強要する。こんなんじゃ、普通の人だったらやってなくても自白してしまいます。

多くの人は「警察は間違っていない」「正しいことを言えば信じてもらえる」と思ってますが、見事に裏切られる。

所詮、小説でしょ?と思うなかれ。

本作は「冤罪はこうして作られる」、冤罪と闘った菅家利和さんの「冤罪 ある日、私は犯人にされた」などを参考文献としており、小説でありながらも現実に起こりうる内容になっていると推測できます。

そして、次は検察。

「よろしい。ひとつ私の経験から言いますと、無実の人は間違っても自分の犯行だと認めたりしないものです。一度認めておいて、後で自白を翻しても無駄ですよ。警察も検察も、それほど馬鹿ではありません」

灰色の虹 単行本 P.213より引用)

警察では無理やり自白させられたのに、「間違っても自分の犯行だと認めたりしないものです。」と絶望的な言葉を言われる。

信じていたものに次々と裏切られていく状況は、気力がどんどん削られていく思いになりそうです。

あらすじ

身に覚えのない上司殺しの罪で刑に服した江木雅史。事件は彼から家族や恋人、日常生活の全てを奪った。出所後、江木は7年前に自分を冤罪に陥れた者たちへの復讐を決意する。次々と殺される刑事、検事、弁護士……。次の標的は誰か。江木が殺人という罪を犯してまで求めたものは何か。復讐は許されざる罪なのか。愛を奪われた者の孤独と絶望を描き、人間の深遠を抉る長編ミステリー。

Amazonより引用)

この小説の、ここが良かった

本作は冤罪、復讐がテーマなので、決してハッピーエンドではありません。

その中で唯一の救いだったのが、母が息子を信じ続けたこと。

息子が警察や検察、裁判所、弁護士、マスコミ、近所の人から犯人だと決めつけられても息子の無実を信じ続けた。

息子にとっては誰もが信じてくれない中で、ただ一つ頼れるお母さん。

使い古された言葉ですが、「母は強し」でした。

雅史は本当に無実だったんです!あの子が人殺しなんてするわけなかったんです!それなのに誰も、誰ひとり、あたしたちの言うことを信じてくれなかった。警察も検察も裁判所も、弁護士もマスコミも近所の人も、みんな雅史がやったと決めつけて、あたしたちの言葉に耳を傾けてくれなかったじゃないの。
(中略)
だって、あたしだけがあの子の味方なんですから。誰も信じてくれない世の中で、雅史にはあたししかいなかったんですから。
(中略)
どうしてあのとき雅史を信じてくれなかったんですか?ただ真面目に生きていただけの雅史の人生を、どうしてめちゃくちゃにしたんですか。

灰色の虹 単行本 P.544より引用)

印象に残ったセリフ・シーン

「あなたのような人がいるから、世の中から冤罪がなくならないんだ。不幸の連鎖が止まらないんだ。あなはもっと、自分が犯した罪について考えるべきだ。そして、心から江木に詫びる準備をしなさい。それが、人間としての最低の義務だ!」

灰色の虹 単行本 P.521より引用)

本作における唯一の良心です。

「あたしはあんたを死ぬまで許さないから。もう弟だなんで思わない。あたしの一生をぶち壊した疫病神よ。あたしだけじゃない。あんたはうちにとっての疫病神なのよ。あんたの弁護料にいくらかかったか、わかってる?弁護士さんに払う費用だけじゃなく、裁判記録のコピー代とか交通費とか通信費とか、必要経費も含めると全部で三百万円くらいかかっているんだからね。我が家の貯金も、これで吹っ飛んじゃったわよ。この上控訴審なんて、どうやって闘っていけるの?あんたはそういう現実をわかってるの?もううんざり。もうあたしとは関わらないで。あたしは家を出る。家を出て、何もかも捨ててやり直す。こんな愚かな弟なんでいない、別人になるの。それでも、恨みは絶対に捨てないから」

灰色の虹 単行本 P.349より引用)

仲良い兄弟から、「疫病神」「死ぬまで許さない」「恨みは絶対に捨てない」とか言われたらもう立ち直れないな。そんな状況を想像したくもない。まして罪をおかしていないのに。

こんな人にオススメ

  • 読み応えのある長編ミステリーを読みたい方
  • 冤罪が生まれるプロセスを知りたい方
  • 貫井徳郎ファンの方

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この記事を書いた人

理系脳と文系心を持つITエンジニア。情報処理技術者(高度)7区分合格。映画・本で感性を磨き、ヘルニアと闘いながらムエタイ最弱戦士として成長中。仕事と趣味を両立させながら、社会人の知的好奇心を刺激する情報を発信中。

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