【書評】乱反射【悪い奴らの話?いや、この本を手にしたあなたの話だ】

あなたのちょっとしたエゴが、誰かの人生を狂わしているかも?

貫井徳郎さんの「乱反射」は、人々の自己中心的な行動が招く悲しい結末を描いています。

「私はただの読者だ」と思って読み始めたあなたも、読み進めるにつれ、ひょっとして「これは私のことかも?」と思うことでしょう。

私たち読者が気づかないうちに誰かを傷つけているかもしれないことを教えてくれる本です。

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目次

総合評価&あらすじ

総合評価

★★★★(星4)

貫井徳郎さんの小説「乱反射」。このタイトルは、作品の本質を見事に言い表していると思います。

現実社会を映す物語

この物語は、ある人の行動が別の人に影響を与え、さらにその影響が連鎖していく様子を描いています。

まさに私たちが生きている世界そのものです。

登場人物たちは丁寧に描かれ、読み進めるうちに、人間のエゴがまざまざと浮かび上がってきます。

私たちの普段の生活では気づきにくい心の闇を、ここまでリアルに見せつけられると、正直読むのが辛くなってきます。

読者自身への問いかけ

そして、ハッとさせられます。この本に登場する人物たちは、実は私たち自身なのではないか?と。
「いや、私は違う」と思う人もいるでしょう。

  • 犬のフンを放置したことはない
  • 運転を放棄したことはない
  • 仕事で手を抜いたことはない

でも、本当にそうでしょうか?本書に描かれるエゴのうち、一つくらいは心当たりがあるはずです。完璧な人間なんていないのですから。

それにしても、本作に出てくる登場人物にはムカついてきます。

自分はできていないにもかかわらず、他人に対しては要求してくる。まるで自分が正義かのようにふるまう登場人物たち。

読んでいて胸糞が悪くなる。

特に女子高生にジジイと呼ばれる定年退職者のセリフ・行動は許せない。

と書いてはみたものの、私自身もそういうセリフや行動をとっている時があるんだと、本作を読んで気付いてしまってなんとも言えない気持ちになりました。

小さなエゴが招く大きな悲劇

小さなエゴが重なり、別のエゴと出会い、最終的に幼い命を奪ってしまう。この展開は、読むのが辛くなるほど衝撃的です。

なぜ星4つの評価なのか

読むのが辛くなる作品なのに、なぜ高評価をつけたのか。それは以下の理由からです:

  • 自分自身を振り返るきっかけになった
  • 世の中の出来事が小さな積み重ねで起こることを再認識させられた
  • 人間の内面を鮮烈に描写し、強い衝撃を与えてくれた

テーマは重いですが、自分の心に深く問いかけることができる作品です。私たちの社会や人間性について、改めて考えさせられる一冊といえるでしょう。

あらすじ

ひとりの幼児を死に追いやった、裁けぬ殺人。街路樹伐採の反対運動を起こす主婦、職務怠慢なアルバイト医、救急外来の常習者、事なかれ主義の市役所職員、尊大な定年退職者……複雑に絡み合ったエゴイズムの果てに、悲劇は起こった。残された父が辿り着いた真相は、罪さえ問えない人災の連鎖だった。遺族は、ただ慟哭するしかないのか? モラルなき現代日本を暴き出す、新時代の社会派エンターテインメント!

Amazonより引用)

印象に残ったセリフ・シーン

ひとつだけわかったことがあった。それは、人間の命運はほんの些細なことで別れるという事だった。

単行本P.408

まさにこの言葉の通りなんだと思います。

あと一歩ずれていたら、あと一秒早かったら、なんて言葉をよく聞きますが、人間の命は些細なことで簡単に失ってしまう儚いもの。

本作を表している言葉の一つです。

番外編

「おお、そうかそうか。それじゃあいろいろな意味で買い替え時かな。麗美の友達がぶつけたのも、そろそろ買い替えろっていう天の声だったかもしれないぞ」
天はそんな細かいことにまで関わらないと思います。

単行本P.183

本作で唯一笑ってしまったシーンです。

でも。でも。でも。

車の買い替えが、子供が助からなかった遠因だと考えると笑ってもいいものか?と後になって複雑な気持ちになりました。

オススメな人・オススメでない人

オススメな人

  • 人の気持ちや行動の理由を知りたい人
  • 自分自身に向き合いたい人
  • 貫井ワールドにハマった人

オススメでない人

  • 長編の小説が苦手な人
  • 暗い気持ちになりたくない人
  • すっきりした気持ちになりたい人

口コミ

怪作(星5)
「乱反射」は、楽しく読める本ではありませんが、とても深い意味を持つ小説です。日本社会の問題点を描きながら、「みんなが悪い人」という考えを見事に表現。
登場人物たちは自分の行動を正当化しようとしますが、それぞれの小さな悪い行動が重なって、大きな悲劇を引き起こします。読者である私たちも、その悲劇の一部かもしれないと気づかされる。
読むのは少し大変ですが、作者の文章力はすごい。社会や人間関係について、深く考えさせられる本です。

タイトルが秀逸(星5)
乱反射というタイトルが、作中には一回も出てこないが作品をよく現わしていると思う。人は誰しも自分が善人だと信じて行動している。しかし、他人にまったく迷惑をかけない、ルールを一切破らない、で居続けられる人はどれほどいるだろう。

風が吹けば桶屋が儲かる…を連想させる(星5)
「この位、いいか?仕方ないもの!」とマナーを守らなかったことが私も数回あった。
自分が大事!今を快適に!という考えや行動が無意識に身についている人は多いと思う。
この小説を読んでいると、例えが違うかもしれないが「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺を連想してしまう。

救いがない(星4)
誰でもがしているような些細なことが事件に繋がっている。誰が悪いとは言いきれず、読後感は嫌な気分のまま終ります。もしかしたら自分のふとした何気ない行動で何かの事件に繋がっているのかも、と、考えさせられます。
事件にかかわったそれぞれの人のその後はどうなったかと考えるとますます暗い気分になります。

彼らを責められるほど我々も潔白ではないという虚しさ(星4)
すべての人間が犯すちょっとした無邪気な行為や不作為が大きな事故や犯罪につながるという可能性に何とも言えない恐怖感を感じる。それぞれの人間を責めたくなるが、それを責めることが出来るほど、我々も潔白ではない。この事実を認めながら
やるせない気持ちで読んでしまう。そんな作品だ。

Amazonより引用・改変

まとめ

「乱反射」は決して楽しい本ではありません。感動する本でもありません。しかし、だからこそ読む価値があるのです。

この本は、私たちの日常に潜む「小さなエゴ」の連鎖が引き起こす大きな悲劇を鮮烈に描き出します。読み進めるうちに、あなたは私と同じように不快感や居心地の悪さを感じるかもしれません。

あなた自身の行動を否応なく振り返らされるからです。

「自分は関係ない」と思っていても、実は知らず知らずのうちに誰かを傷つけているはずです。

この本は、そんな気づきを与えてくれる、あなたの鏡なのです。

人によっては、あなたの人生観を変える転機となるでしょう。

人によっては、社会で生きる一人一人の責任を感じるかもしれません。

ですが、これだけは言えます。読み終えた後、あなたは少し違う目で世界を見るようになるはずです。

厳しい現実を突きつけられますが、だからこそ意味のある一冊です。

ぜひ「乱反射」を手に取り、自分自身と向き合ってみてください。

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この記事を書いた人

理系脳と文系心を持つITエンジニア。情報処理技術者(高度)7区分合格。映画・本で感性を磨き、ヘルニアと闘いながらムエタイ最弱戦士として成長中。仕事と趣味を両立させながら、社会人の知的好奇心を刺激する情報を発信中。

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